一寸先は闇

梅雨間近を思わせる蒸し暑い陽気の出勤日の土曜日。半日の勤務を終え帰宅し、書斎のソファで横になり昨日も聴いたチェコの3大作曲家ドヴォルザークスメタナヤナーチェク弦楽四重奏を聴きながらウトウトしてしまったらしい。母が階下から「Tさんが来ました」と声をかける。T君は前の会社に36年前に同期で入社した友人で、彼は入社後3年で市内の自動車販売会社のコンピュータ室へ移ったのだが、付き合いは続いている。私は大学、彼は高校卒ということもあり、先輩として慕ってくれ気軽に訪ねて来る。今日も事前の連絡はなかった。彼は半年前に30年以上前に手術した胃の接合部の具合が急に悪くなり、再手術したのだが相当な難手術だったらしい。そのせいかコーヒーを沸かそうとしたら良いと言う。コンピュータ室長としての仕事は順調なようで、その他近況などを楽しく語り合うことができた。
T君が帰ったので、夕食前に風呂に入りたく思い沸かすことにする。5時ごろ若干早いが風呂に入る。そこで不覚にもハプニングが起きた。浸かっていた浴槽から洗い場へ浴槽の縁に左手をつき右足を洗い場に出そうとした瞬間、左手が滑り引っくり返り左のわき腹を強く縁に打ちつけてしまった。息が止まるほどの衝撃だった。息はどうにか戻ったが、わき腹の痛みは相当なものだ。幸いに後頭部は打たなかったのは運が良かった。ともかく湿布剤を塗布ししばらく様子を見ることにする。夕食が終わり、それでも骨や筋に異常があるか心配なので、車で5分ぐらいの県立中央病院の救急外来に電話し、行くことにする。外来で受付を済ませ待っていると、町会のS副会長の奥さんが娘さんと一緒に受付をしているので声をかける。奥さんが家で飼い猫に足の脹脛の部分を咬まれたと言っている。確かSさんも以前猫に咬まれたことがあったはずだ、と言ったら頷いている。私は一見普通に見えるので、「どなたかお悪いんですか?」と尋ねるので、風呂でのことを言ったらびっくりしていた。写した3枚のレントゲン写真を前に、医者は「わき腹のレントゲン写真の骨折の判断は難しい。どちらにしても患部をバストパッドで固定し治るのを待つしかありません。2、3週間は痛みます」とのことだった。帰ると母は「一寸先は闇」と言っている。