なきかのごとくある

この冬のわが国の各都市の平均気温は1度以上平年を上回っているらしい。東京では初雪が観測される前に梅がほころび始めてしまった。例年氷点下10度以下が常態のモスクワでは10度以上高くなっている。南のオーストラリアのシドニーのあたりでは超旱魃穀物の輸出国が輸入せざるを得ないという状況になっている。1週間ほど前のテニスの全豪オープンでは49度の超高温の下、今日決勝進出を決めた集中力が切れたシャラポアがやっと初戦を勝ち上がったという記事が載っていた。南米ペルー沖の海水温が高くなるエルニーニョ現象がこの異常気象の原因らしい。寒の真っ只中、確かに寒いが肌を刺すような寒さは一度もない。寒いことは寒いが妙に空気が重く感じられる寒さだ。何かで読んだがここ10年で緯度に換算するとわが市は瀬戸内の岡山市まで下がったことになるらしい。
10時からのNHKプロフェッショナルの流儀は「世界が認めた指揮者・大野和士」だ。バースタインに「カズシ」と可愛がられた大野も46歳になった。ベルギー国立歌劇場の主席指揮者の彼の指揮はオペラ、シンフォニー共に評価が高い。彼は新しい楽曲を手がけることごとに、膨大な資料を原語で読み込み、作品への理解を深める。そして英語、独語、仏語、伊語を自在に使いこなし、自分の作品の解釈を、歌い手や楽器奏者たちに伝える。彼のモットーは「崖っぷちの向こうに喝采がある」。練習では100人が出す音を聞き分け、自分のイメージとずれていれば、ピンポイントでその演奏者に情景や意味を伝えていく。本番では、一人一人の能力を解き放つことに重きを置く。ことさら大きな身振りはしない。「なきかのごとくある」、それが指揮の極意だと大野は言っている。最後に「どんな状況になろうとも自分のベストを尽くすべく、その試みを最後まで諦めずにすることですね」で結んでいる。