Snow Bird!

日経新聞の連載小説は今月より堺屋太一の「世界を創った男チンギス・ハン」が始まる。チンギス・ハン(ジンギスカン)の小説と言えば井上靖の「蒼き狼」を思い出す。井上の独特な詩情のある簡潔な文体に初めて出合ったのは、確か高校1年ごろだったと思うが、NHKラジオの朗読の時間で、「楼蘭」という小説を聴いたときだった。「楼蘭」は紀元前に中央アジアシルクロードの西域に存在した小王国で、周期的に移動することで知られるロブ湖の動きにつれて湖のほとりの人々の生活も移動をするという神秘的な物語だ。ロブノール(湖)は「さまよえる湖」と題したスウェン・ヘディンの著書でよく知られている。井上の静謐な無駄のない描写で、漢と匈奴という二つの勢力に囲まれた小国の苦悩と、ロブ湖の動きにつれ先祖代々の土地を捨てて新たな地に生きることとなる宿命が朗読されていた。聴き終わった後、文庫本で読み直してみたが朗読で聴いたのと違う、活字を追って初めて分かる新鮮な感動を覚えた。その後井上の小説の虜になり「敦煌」「天平の甍」など歴史小説に限らず現代小説、詩集まで殆ど読んだ。その中の一冊が「蒼き狼」だ。辻邦生に出会うまで、私の中で一番好きな小説家は井上だった。今も本棚の小説のスペースの半分は井上と辻が占めている。
連載小説では、少年のテムジン(チンギス・ハン)が出征前のあわただしい父と一緒に過ごす場面が、堺屋の淡々とした文体で写実的に描かれている。モンゴル族は「蒼き狼」の末裔だと言うフレーズが始めて現われる。新聞を読む楽しみが増えうれしい。
話は全く変わるが、今朝ラジオの海外レポートでハワイ在住のレポーターの女性が、避寒にハワイへ来る人のことを「Snow Bird(雪鳥)」と言っていた。初めて知る。
●聴いた曲
 ジュリアーニ「ロンドー(グランド・ソナタ作品25より)」
 グラニャーニ「ギターとヴァイオリンのためのソナタ作品8の1、8の3」
   アレクサンドル・マルコフ(ヴァイオリン)
   エドゥアルド・フェルナンデス(ギター)