落日燃ゆ

昭和天皇A級戦犯合祀に不快感を示され、参拝中止は御本人の本心だと発言された日経の一面の紙面には驚かされた。私は現首相が参拝に固執する発言・態度を見るにつけ強い疑問を感じていたので、前陛下の御発言に深い感動を覚えた。終戦時の御前会議で陛下が終戦宣言をなされなかったら、先の大戦の惨禍はもっともっと想像を絶するものであったことは疑いはない。勝者が敗者を裁くリンチ的な側面がある極東裁判には疑問がないではないが、どちらにしても一億玉砕と言って国民を塗炭の苦しみに陥れたA級戦犯に代表される指導部の責任は万死に値する。松岡洋右外相、大島駐独大使等名前をあげられた関係者はとまどいを感じたかもしれないが、事実は事実として深く受けとめなければならない。
A級戦犯といえば城山三郎廣田弘毅の評伝「落日燃ゆ」を思い出す。城山は彼の極刑は不当だという立場で書いている。主人公廣田は外交官から外相、首相を務めた人物で、「東京裁判」で絞首刑の判決を受けた最後の7人のうちの1人。他の6人(土肥原賢二板垣征四郎木村兵太郎松井石根武藤章東条英機)が軍人であったのに対し、ただ1人の文官であったという。皮肉なことに、外相、首相として在任中は一貫して戦争回避の立場を取り続けたというのに、戦争を阻止できなかった責任がある、と裁判では一切の自己弁護を行わなかったため、戦争の実行に対する罪で絞首刑にされてしまった。極東裁判の経過が詳しく書かれているところが興味深かった。また、戦前というか支那事変をめぐる国内外の陸軍の暴走振り、特に二・二六事件前後の無茶苦茶さがよく伝わってくる。 最後のシーンが印象的だ。廣田弘毅が十三階段を上れるように、「私が先に行っているから取り乱さずに絞首台に上がって」と静子夫人は先に自害したのだが、思い出すたびに感動を覚える。
●聴いた曲
 ブルックナー交響曲第4番(ロマンティック)」 
  カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団