運命の人

文藝春秋山崎豊子の連載小説「運命の人」は沖縄返還交渉をめぐる外務省機密文書漏えい事件が題材となっている。佐藤首相は無償返還だと主張していたが、「日本政府は支出する三億二千万ドルのうち、四百万ドルを自発的支払いにあたる米信託基金設立のために確保しておく」 という密約(機密文書)があった。そのことは米公文書で後に明らかになった。協定上、資産引き継ぎなどの名目で日本が米国に支払う三億二千万ドルの中に、本来は米国が負担すべき四百万ドルを紛れ込ませ、表向きは米国が支払うように見せかけたことを意味する決定的な文書だった。その機密文書のスクープをめぐっての毎日新聞の西山記者(小説では弓成記者)と外務省事務官は蓮見(同 三木)の恋愛?関係が当時マスコミで侃侃諤諤の報道がされたのはいまでも記憶に残っている。
今月号は初審から1年10ヶ月の公判の判決の場面で始まる。両人とも国家公務員法違反で訴えられたのだが、西山は無罪、蓮見は懲役6ヶ月の刑に処せられた。弓成の無罪に対しては検察側が上告し、後に彼も有罪になった。民間人が何故?と当時疑問に思った。その後上記の米公文書で密約が確認されたときはなおその感を深くした。外務省側が裁判で否定し続けた密約が存在したわけだ。国家権力の横暴さにやりきれなさを感じた。